「行動する児童相談所」を掲げ、紙運用の限界を乗り越えるために高崎市が選んだのは、SaaS型システム「AiCAN」の導入でした。後編となる本記事では、AiCANの導入によって生じた業務の見直しや、アップデートが続く開発途上のシステムとどう向き合うかといった点に焦点を当て、高崎市がどのようにAiCANを活用して業務を推進、改善しているのかを深掘りします。
━━ AiCANの導入によって他の業務にも影響はありましたか?
AiCANがSaaS(Software as a Service)型のサービスであることの影響が大きいです。これまでは業務に合わせて紙の書類を準備する、ツールを活用するという考え方で業務を推進してきたのですが、AiCANを導入してからは、AiCANを最大限うまく活用できるように業務を設計する、という考え方に変わりました。
AiCANをうまく使っていくために、これまでの業務を見直す必要が出てきたため、システムの改善だけでなく、業務フローの見直しやルールの設定も並行して進めて行きました。
━━ 具体的な事例を教えてもらえますか?
これまでは帳票類や記録を印刷してから上席に回覧して確認してもらうという運用をやっていたんです。でも、同じことをAiCANの電子決裁機能を使ってやってみたら、膨大な件数を電子上でチェックしなければならなくなってしまい、一ヶ月経っても回覧が終わらない、という状況になりました。
そのときに、「そもそもどうして全ての書類を回覧する必要があるのだろう?」、「確かにこれ、意義が曖昧じゃない?」という話になり、最終的には、「紙の書類の回覧はやめる」、「重要な書類については、AiCANの決裁機能と市の文書管理システムを状況に応じて使い分けて決裁を行う」という形に方針をガラッと変えました。
変更には賛否両論ありましたが、新しい方針を導入することで決裁は以前よりもスムースにできるようになったと思います。
━━ システムの導入と並行して業務フローやルールの見直しを進めるのは負荷が大きいですよね。
現在は児童相談所の設置準備とAiCANの開発、改善が並行して進んでいるため、どちらも確定していない状態なんです。「将来の業務フローが決まったらAiCANの使い方を決めたいけど、AiCANもアップデート中で今後仕様が変わるかもしれない。業務フローとAiCANの仕様に齟齬があったら再度フローを作り直さなければならない」というような難しさはあります。
一方で、児童相談所を新設するこのタイミングだからこそ、「本当に必要な業務は何か」といった視点で業務を見直すこと、設計することができているように思っています。
改めて、法令や国の指針、ガイドラインを読み込んでいくと、今までの運用のおかしい点に気づくこともあります。また、他自治体を視察したり、担当者の方に話を伺う機会が多いので、外の事例に触れることもできます。そういった中で得られた知見が、現在の業務フローを見直したり、児相での業務フローを設計したり、AiCANの効果的な活用方法を考えるために役立っていると感じています。
━━ AiCANはSaaS型ゆえに頻繁に機能がアップデートされると思いますが、その点はいかがですか?
アップデート自体はありがたいです。たとえば「ここはもう少しこうなったらいい」といった要望が比較的早く反映されるのは、自治体システムとしては珍しいですし、現場にとっても助かります。
ただ一方で、アップデートがあると「新機能を使うために運用ルールを変えよう」という作業が必須になるので、そこで周知や説明が追いつかず混乱しがちな面もあります。
ただ、その状況に対してAiCANの担当者さんも丁寧にコミュニケーションをとってくださり、「現時点での仕様はこうなります」、「今後こう変わる予定です」という情報を頻繁に共有してくれるので、それを元に業務フローやルールの見直しを行い、対応しています。
アジャイル型(開発を小さな単位に分け、計画、設計、実装、テスト、リリースを繰り返すことで、短期間に成果物をリリースしていく手法)で開発を並行していくことのメリットは大きいですが、その分自治体側にもそれを受け止めて、調整し続けていくためのチーム体制やリソースが求められるなと感じています。
━━ SaaS型で、かつ、開発途上(※1)であるAiCANを採択することには不安やリスクはあったと思うのですが、改めて最終的にAiCANが採択された理由を教えていただけますか?
先ほどは、アジャイル開発のメリットを話したのですが、「開発途上である」というのは導入に関しては本来大きなデメリットなんです。「すでに完成しているパッケージを並べて必要な機能がそろっているかを比較したい」というのが一般的な考え方ですが、それに対し、AiCANさんは「今後この機能をリリース予定です」、「正式版ではこうなります」という開発途上の形で提示されていたので、どうしても不安は残りました。
それでも最終的にAiCANさんがプロポーザルにて採択され、契約に至ったのは、タブレットを活用することで現場とバックオフィスをシームレスにつなぐことができるなど、現場を重視する「行動する児童相談所」という高崎市のコンセプトに最も合致すると考えられたからです。そのコンセプトに合致するという大きなメリットが、開発途中であるというデメリットを上回った、ということが大きかった。
(※1)法定業務管理機能オプションのリリースは令和6年12月で、リリース前の採択でした
━━ 今後、AiCANに期待することや、解決したい課題があればお聞かせください。
まず「住民基本台帳システムなどとの連携」です。名前や住所などの表記揺れをなくし、入力の手間やミスを減らすには、どうしても外部システムとの連携が欠かせません。また、他部署の情報をAiCANでも確認できるようになれば、より業務の効率化を進めることができます。自治体特有のセキュリティ要件や技術的な障壁もあるので、一朝一夕にはいかないと思いますが、これが実現できると日常業務がさらにスムーズになるはずです。
もうひとつは「AiCANとしての設計思想の明確化」です。自治体によって児童相談所の業務フローや運用方法が大きく異なるため、AiCANさんにも多種多様な要望が寄せられると思います。もちろん多くの要望に応えようとしてくれるのはありがたいのですが、「なぜそれが必要なのか」、「どう使うことを想定しているのか」というAiCANの設計思想が不明確なままだと、こちらも業務フローを設計するのが難しくなってしまいます。AiCANさんが児童相談所の業務のICT化・DX化をどのような哲学や思想に基づいて設計しているのか、AiCANを通じてどういう価値を提供しようとしているかを私たちも理解したいし、現場にその考え方を共有していけるといいなと思っています。
前後編を通じて、高崎市さんが「紙運用からの脱却」へどのように踏み出し、実証実験から本導入への道を歩んできたかが見えてきました。
児童相談所開設に向けて、これからが本当の正念場。「行動する児童相談所」というコンセプトをぶらさず、AiCANのシステムを軸に業務の設計を進めています。その動向は同じ悩みを抱える多くの自治体の参考になるのではないでしょうか。
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